昼行灯 4



 それから僕はラグラッドさんからいくつか質問を受けた後、その日は家に帰っていく。
 やがて聞き出した情報を元に、ラグラッドさんは自分の仕事を完璧に果たしたようだった。
 わずか数日のうちに男達を探し出し、その全員をあの世へ送る。 手口は鮮やかであり、新聞でそれを知った僕は歓喜よりも驚きの方が勝っていた。
 そして僕は事の顛末を知った後、いてもたってもいられずにラグラッドさんの元へ向かおうとする。
 しかしあのビルの狭い部屋はすでに空き部屋となっており、仕方なくその日は家に帰った。
 その後も何度か訪ねていったが、もう二度とラグラッドさんに会える事はなかった。
 あの時は簡単に会えたのに、何故か今度はどれだけ探しても見つからない。 まるで最初からいなかった幻かの如く、ラグラッドさんは姿を消してしまった。
 結局、僕はあの人にお礼すら言えなかった。 また罪悪感のようなものを感じもしたが、それ以上に心はいつの間にか晴れやかになっていた。
 僕は間接的にだが復讐を果たし、父の仇を取ったのだ。 今まで落ち込むばかりだった気分も大分上向き、あの日から徐々にだが感情が戻ってきたように思う。
 人と接する事も苦にならなくなってきたし、笑えるようにもなってきた。
 笑う事なんて、父が生きていた時は毛嫌いさえしていた。 でも今となっては、笑う事が楽しく思えている。
 そして僕は段々、こう考えるようになってきた。
 笑える事は、幸せな事なのだ。 本当に辛い時だったら、そうするという行為自体を忘れてしまう。
 そしてさらに気分は落ち込んで、ますます憂鬱になっていくだけなのだろう。
 だが僕はそうならず、改めて父の強さをも知る事になった。
 どんなに嫌な事を目の前にしても、ずっと笑っていた。 笑みの下で苦しみもがいても、それでも戦い続けていた。
 僕には知る由もなかったが、恐らく父なりに精一杯生きていたのだろう。
 それを僕は勝手な思い込みで、軽蔑してしまっていた。 僕は本当に愚かで、浅はかだったと未だに思う。
 しかしこれからは、もう以前の僕とは違う。
 父を悪く言う者がいたら、笑う者がいたならばその時はこう言える。
 僕の父は弱くも、卑怯でもない。 だからいつも、笑っていられた。
 そんな父の事を、僕はとても尊敬している。 これからずっとそうなのだと、強く言ってやるんだ。
 そして同時に、僕は満面の笑みを作って見せる。 かつての父のように、その生き方を引き継ぐように。
 ……そして僕はいつか、父のようになりたい。 いつも笑みを絶やさず、誰かのために戦える。
 そんな人間になりたいと、僕は父の墓に誓った。
 ふと見ると墓の前には誰が置いたのか、赤い綺麗な花が添えられていた。 僕以外にも、父の事を知っていてくれた人がいたのかもしれない。
 それを見て僕は少しだけ、気分が軽くなる。
「ぁ……」
 同時にその時、頬をゆっくりと伝う何かを感じた。 それはあの日以来、枯れ果てて全く流れる事のなかったものだった。
「は、はは……。泣けた。そして、ようやく笑えたよ……」
 やっと感じる事のできた涙の暖かさを感じながら、僕は笑みをこぼしていく。 傍から見れば奇妙な姿をしていただろうが、何も気にする事はない。
「父さん……。ははっ……。あはははっ……」
 物言わぬ墓を前にして、それからも僕は泣き笑いし続ける。
 よく晴れた昼下がりの墓地では、やっと重いものから解き放たれた喜びの声が響き続けていた。


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