アクター 3



 本来ならアクターは単純な人口増加、それに伴う国力の増強のために研究と製造がなされた。
 だが結果的にはこのような不幸な事件を招き、未だ確認されていないだけでもアクターに関連するかなりの数の事例があると観測されている。
 このまま放っておけば将来的には更なる問題が噴出するのは明確であり、計画の修正や凍結も余儀なくされる状況に追い込まれつつあった。

 アクターが開発された当初は素晴らしい未来が約束されていたのだが、現実はそれと真逆の道を辿りつつある。
 人は誰しも感情や不確かな情報に翻弄され、時にはどれだけ愚かな決断でも下してしまう習性があった。
 さらにそれぞれが独立しているからこそ、最大限に他人を信じ切れずに疑念や裏切りもいつまでも付き纏う。
 これは人が元から持つ特徴なのか、物や情報に溢れた時代だからこそ起こる現象なのかは定かではない。
 それでも男は自分の感じた疑問に目を瞑り、何も考えずに生きていけば幸せなはずだった。
 妻も全てを自分の中に溜め込まず、誰かに相談や支援を頼めば結末は変わっていたかもしれない。
 しかし結局はそうはならず、周囲の人間をいくらでも巻き込む形でただただ不幸な終わりを迎える事となる。
 どれだけ完璧な存在を作ろうと、社会の大部分を形成しているのは不完全な人間の集まりに過ぎない。
 外敵や自分達とは異なるものを拒むそこは排他的とも言え、何らかの異物を放り込めば少しは変化をもたらすのも当然である。
 ただしその時に生まれ、広がる波紋も相当なものになると予想や覚悟をする必要もあったのかもしれない。
 もしこの先アクターを運用するならば、人間よりも多くの数を投入する。 あるいはそもそも人間自体を、アクターと置き換えてしまえば問題は解決するかもしれない。
 それによって新たな問題も生まれるかもしれないが、どうするにせよ人に似過ぎた人ではない何かと共生する未来はまだ当分は訪れそうにはなかった。


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